当記事では、ジブリ映画『君たちはどう生きるか』より、
・夏子は、なぜ「大嫌い!」と叫んだのか
・夏子は、なぜ産屋に行ったのか
・産屋の禁忌とは何なのか
等といったことを絵コンテより考察、解説していきます。
夏子が、眞人に「大嫌い」と言ったのは、本心だったのでしょうか?
それとも、優しさから?
夏子は、そもそもなぜ産屋に行ったのでしょうか?
産屋の禁忌とは?
『君たちはどう生きるか』夏子と勝一(父親)が再婚した納得の理由とは
『君たちはどう生きるか』夏子はなぜ「大嫌い」と叫んだ?絵コンテより考察
本心から。
夏子が産屋で眞人に「あなたなんて大嫌い!出ていって‼」と叫んだ理由はなんと、本心から。

優しさから、敢えて眞人を突き放すようなことを言ったのではないかという見方もありましたが。
夏子のあの鬼姫のような形相は、憎しみからくるものだったのですね。
夏子がこの時眞人のことを「眞人さん」と名前を呼ばずに、「あなた」と呼んでいることからも、敵意が伝わってきますよね。
あんなに眞人に優しかった夏子に、一体何があったのでしょうか。
『君たちはどう生きるか』夏子はなぜ産屋に行ったか考察
夏子は現実逃避から産屋に行った。
思うに夏子は、姉に会いに行ったのではないかと思うのです。
眞人のように、アオサギに誘われたのかも。
夏子は相当ストレスを抱えていたようです。
ヒサコが亡くなり、辛かったのは、何も眞人だけではありませんね。
唯一の肉親を失い、その夫だった人と結婚し、身籠り、義息子ができ、しかしその義息子は懐いてくれず、学校ではいじめられ、目まぐるしい環境の変化の中、つわりはひどく、不安定な中どんなに歩み寄ろうと、義息子には冷たい態度を取られる。
最悪です。
眞人の気持ちは分からんでもないですが、夏子が流石に不憫になりましたよね。
それらの出来事は、夏子が眞人を嫌いになるには十分であったと思います。
勝一(夫)もいますが彼は鈍感ですから、夏子が追い詰められていることにも気が付けず、彼女の支えにはならなかったのでしょう。
夏子の産屋に立ち入ることがなぜ禁忌なのか?絵コンテより考察

産屋に入ることが禁忌(タブー)だというのは、下の世界の掟であることが分かります。
では、なぜ禁忌なのかというと、時代背景によるもので、「産穢」観に由来しているもののようです。
これがどういうことかというと、日本の伝統では、血への恐れから、出産を穢れとし、出産の近付いた妊婦を産屋に隔離していたのだそうです。
(とはいえども、妊婦に無理させないことが目的だったらしい)
男性は産屋を覗くだけでも、不運に見舞われると伝えられていたそうです。
どちらかといえば、産屋は神聖な場所で、外の穢れから隔離する、という考えだったようですね。
この禁忌の風習は、一般的には昭和30年代まで続きました。
映画『君たちはどう生きるか』の時代設定は昭和18年。
眞人は子供なので知らなかったかもしれないですが、夏子にしてみれば、自分が隔離されていることは常識的なことだったと考えられます。
神話的タブーの継承

『古事記』のトヨタマヒメ(豊玉姫)の神話では、産屋の中をのぞいてはいけないと命じられながらも、ホヲリノ命(火遠理命)が覗き見をしてしまい、豊玉姫が恐ろしい鰐の姿に変じて怒り、海に帰ってしまうエピソードがあるということで…
この物語が、「産屋=神聖かつ危険な場所」というイメージを民間信仰にも強く刻んだと考えられているようですね。
眞人を襲った白い紙の正体は?

御幣(ごへい)
ご‐へい【御幣】 の解説
出典:デジタル大辞泉(小学館)(goo辞書経由)
幣束 (へいそく) の敬称。白色や金・銀の紙などを細長く切り、幣串 (へいぐし) にはさんだもの。お祓いのときなどに用いる。おんべ。
白い紙は、夏子を守っていたのですね。
御幣に意志があったのか、石の力なのかは分かりませんが、御幣は眞人を穢れとみなし、排除しようとしたようでした。
夏子が眞人に心を開くと、御幣は夏子にも襲い掛かかりましたね。
夏子を産屋にとどめて、外の穢れに触れさせないようにする為だったと思われます。
インコマンはヒミを「殺せ」と騒いでいた

絵コンテによれば、インコマンたちは実は「ヒミを殺せ」と叫んでいたそうです。
現代でいう炎上と重なるところがありますね。
インコマンがムキになった理由は、ヒミが禁忌を破って眞人を産屋に案内したからですね。
夏子の赤ちゃんは、大伯父様の後継者になり得る存在です。
大伯父様は下の世界の創造主であり、インコマンたちにとっては、いってみればもう神のような存在ですよね。
そんな人の後継者を奪われるとなったら、インコマンたちにとっては死活問題です。
女のヒミや夏子では、家制度の影響あって、後継者にはなり得なかったのでしょう。
(※家制度は、第二次世界大戦後の民法改正により廃止)
インコ大王はヒミをダシに大伯父様と取引しようとした

そんなわけで、インコマンたちにとってヒミは疎ましいだけです。
しかしインコ大王は、ヒミが禁忌をおかしたことをダシに、大伯父様と取引をし、全てをインコの元にしたいと考えました。
石の中はもう、インコでいっぱいだったからです。
石の外にも領土を広げたいというわけですね。
これは、戦争のメタファーではないでしょうか。
『君たちはどう生きるか』夏子と勝一(父親)が再婚した納得の理由とは
『君たちはどう生きるか』その他夏子の産屋のシーンを考察
眞人はなぜ夏子に心を開いた?

眞人が心を入れ替えた理由は、母から贈られた一冊の本でしたね。
その本(『君たちはどう生きるか』)には、自己中心的な考えをしないで、俯瞰的な視点を持つことの大切さなどが説かれていました。
眞人は、これまでの自己中心的な考えや行いを振り返り、改めたいと思ったのではないでしょうか。
眞人はこの少し前に、ふらふらと寝間着のまま外へ出て行く夏子を窓から目にしていました。
しかしその時は、夏子に感情移入したくない、という思いから、これを見なかったことにしたのです。
ですが本を読み終えた眞人は、決意を新たに、夏子を捜しに下の世界へと旅立ちました。
夏子はなぜ産屋で正気を取り戻したのか?

眞人に、「母さん!」と呼んでもらえたから。
救われたのでしょうね。
夏子は眞人に受け入れてもらえたことに気が付いて、我に返りました。
そして、恐らくやっぱり家に帰りたいと思ったのでしょう。
すると夏子は今度は眞人を心配する気持ちから、
「眞人さん逃げて!」と声を掛けたようです。
夏子が「あなた」呼びから「眞人さん」呼びに変わったことでも、夏子が心を閉ざしていた理由を推し量ることができますね。
夏子の頑なになっていた心がほどけたシーンでした。
大嫌いと、大好きは紙一重ですね。
『君たちはどう生きるか』夏子と勝一(父親)が再婚した納得の理由とは
参考:[PDF] 産屋習俗 の 終焉過程 に 関 する 民俗学的研究, 産屋習俗の終焉過程に関する民俗学的研究 – CiNii Research
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