世界で愛され続けるジブリ映画のひとつ『紅の豚』。
海外の反応が気になるところですが、中でも気になるのは、『紅の豚』のモデル国となった、イタリアの反応ではないでしょうか。
イタリアでは、『紅の豚』が1992年に公開されてから32年が経過した2025年にも、同作よりあの名台詞が引用されていました。
『紅の豚』を観たイタリアの反応(海外の反応)
①『紅の豚』はイタリア人に好意的に受け入れられている
『紅の豚』は、イタリア国民に好意的に受け入れられています。
このことは、上記の投稿を見ても、容易に想像できるはずです。
イタリア国内の地下鉄を、『紅の豚』のラッピング列車が走っています。それくらい万人受けするということでしょう。
宮崎駿監督は、イタリアにある博物館を訪れて、爆撃機の中に入ったことも。(映画雑誌『CUT』2010年9月号『続・風の帰る場所』より。https://www.buzzfeed.com/jp/kenjiando/porco-rosso-final-attack経由)
②『紅の豚』を観た反応はイタリア人の方が重い?
イタリアの口コミサイト、日本の口コミサイトを比較して感じたこと。
それは、イタリア人の方が、”『紅の豚』は反ファシス映画である”と、テーマを重く受け止め、掘り下げていた様子だったということ。
それに引き換えて日本人は、「ポルコかっこいい!」「あのシーン(セリフ)が好き」など、『紅の豚』をライトに、楽観的に楽しんでいた様子だったということです。
なぜこのような違いがあるのか。
国民性の違いからくるものなのか(例えば、国民の政治に対する感心の差。日本は55カ国中52位と低い。イタリアは20位)。
あるいは、もし仮に舞台が日本であったならば、日本でももう少し戦争や歴史に言及するようなコメントも見られたのかも。

③『紅の豚』を観たイタリア人ならではの反応

イタリア人の口コミの中でも、これは本当にイタリア人にしか書けない感想だな、と感じた投稿を引用し、紹介させて頂きます。
「紅の豚」が好きでした。これはイタリアに捧げられた美しい作品であり、ユーモアはそれほど斬新ではないかもしれないが、イタリア語版のおかげもあって、ささやかながらうまく機能している。イタリア語版は、ひどい言葉遣いに翻案された2、3の文章を除けば、その他は良く、主人公の性格描写を豊かにしていると私は思う。吹き替えも質が高く、マルコの声も完璧です。
映画の背景に繰り返し登場する楽器はマンドリンですが、決して偶然ではありません。この音楽はイタリアの大衆文化を思い起こさせるものでもある。
この長編映画はコメディを目指しており、バド・スペンサーやテレンス・ヒルのように、戦い、レース、賭け、挑戦、少々拍子抜けといった単純なユーモアにとどまっているものの、概ね成功している。だから、私の意見では何も素晴らしいことはないけど、大丈夫。この反クライマックスは宮崎駿のマスターにとって特に役立つ。ここで彼が意図したのは、センセーショナルな展開や救いようのない悲観主義を伴うプロットを書くということではなかったのだ。ドラマは、起こると、ベールに包まれ、つかの間のものとなる。
宮崎監督がここで、これまでの作品では見られなかった、ある種の形而上学的な次元を描き出しているのは興味深い。物語のジャンルから言うと、この長編映画は非常にハイブリッドです。少し歴史的(ただし、ファシスト政権はほぼ唯一の舞台です)、少しファンタジー(有名な民話「王女と魔法のキス」にウィンクしています)、少しコミカルです。
そして、映画館内でポルコが「ファシストになるくらいなら豚でいた方がいい」と言う有名なシーンは素晴らしく、映画界の歴史に残る名シーンだと思います。
この映画には、初期のアメリカのアニメーションへの素晴らしいオマージュも含まれており、メタナラティブの素晴らしい例が紹介されています。
しかし、ナレーションのペースは最良とは言えず、ところどころで無駄な時間が感じられました。
17 歳の少女と、彼より少なくとも 30 歳年上の男性との恋愛関係をほのめかすこの事実に、私は少々当惑した。この観点から見ると、物語はおそらく少々奇妙すぎる方向へ進んでいきます。
この映画は楽しいですが、私の意見では他のジブリ映画に比べると劣りますが、最悪というわけでもありません。絶対見る価値があります。
以上は、(https://www.animeclick.it/anime/567/porco-rosso/recensioni)よりSHIRYU OF DRAGONさんの口コミを訳したもの。
イタリア人ならではの反応を楽しめたかと思います。
マンドリンが繰り返し登場していることに気が付けるのも、その音楽にイタリアの大衆文化を思い起こせるのも、現地人ならでは。

マンドリンは、イタリア発祥の撥弦楽器で、17世紀中頃に登場し、発展したものだそう。
日本でも、国民的女優の芦田愛菜さんが中学時代にマンドリン部に所属していたことで、マンドリンに注目が集まりました。
そして、意外なところでは、「ポルコとフィオの恋愛関係を仄めかす事実には、少々ひいてしまった」という文章にも、海外の反応らしさを感じました。
いかがでしたでしょうか。
日本では、嘘か本当か、男性にはロリコンが多い、といったイメージがあるからかもしれません。
イタリア国民に引用されまくった『紅の豚』のあの名台詞

きっかけはジブリ風のAI画像
2025年5月初旬、スタジオジブリの名作『紅の豚』が、思わぬ形でイタリアの政治的論争に巻き込まれることとなりました。
きっかけは、イタリアの政治氏率いる政党「Fratelli d’Italia(イタリアの同胞)」が、公式インスタグラムに、ジブリ風フィルターがかけられたジョルジャ・メローニ氏のイラスト画像を投稿したこと。

この投稿には、「私たちは未来のこだま(Noi siamo l’eco del futuro)」というキャプションが添えられていました。
しかしこの投稿が、多くのユーザー怒りを買ってしまい、ネット上で物議を醸す状況に発展。
ユーザーは、『紅の豚』の画像や名台詞を引用し、同作の反ファシズム的なメッセージと党の政治的立場との矛盾を指摘、批判しました。
“「Meglio porco che fascista」”
(ファシストになるより豚の方がマシさ)
インスタコメント欄よりイタリア市民の反応(要約)

「紅の豚は反ファシズムの象徴だ。政治家のプロパガンダに使うな」
「メローニにこの言葉を贈る。“ファシストになるより豚の方がマシさ”」
「この政党がジブリのフィルターを使ったのは皮肉でしかない」
「今の流行りに乗るのは分かるが、宮崎のような巨匠の芸術を恥知らずな目的で使うのをやめよう」
「メッセージを理解せずに使うと、こういうことになる」
「スタジオジブリの名誉を守ろう」
「ジブリが訴えてほしい」
以上のように中には極端な意見もあり、文化と政治の線引きを求める声が多数見られました。
これらの反応からは、イタリア市民が、いかにFratelli d’Italia公式SNSのこの投稿に怒りを覚えたか。
そしていかにスタジオジブリと宮崎駿監督、そして『紅の豚』を愛し敬意を示しているかが分かります。
ジブリ作品と政治的メッセージ

宮崎駿監督の作品は、かねてから反戦・反権威主義・反ファシズムの立場を明確にしているように思います。
その思想は、『紅の豚』だけでなく、『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』『風立ちぬ』などにも色濃く反映されているようです。
特に『紅の豚』は、1920年代のイタリアを舞台にした物語。
『紅の豚』には、当時のファシズムの影がちらつく時代を背景に、個人の自由と信念を守る姿勢が描かれています。
イタリア国民にとって、こうした歴史的文脈は非常にデリケートであり、今回のSNS投稿が反発を呼んだのも無理はない、ということなのでしょう。
「Fratelli d’Italia(イタリアの同胞)」がなぜ「ファシスト的」と見なされるのか
Fratelli d’Italia率いるジョルジャ・メローニ氏は、19歳の頃、イタリアのファシズム指導者として知られるムッソリーニを「よい政治家だったと思う」と語ったことがあるといいます。
現在ではファシズムと決別したといいますが、2022年、ローニ氏がSNSに投稿したロゴが、かつて彼女が所属していたネオファシスト政党と同じデザインだったとして、一部物議を醸しています。
(参考:https://www.tbs.co.jp/sunday/handmade/h20221002.html)
小まとめ
宮崎駿監督の作品は、反ファシズム、平和主義、自然との共生などのテーマを強く打ち出しています。
政党Fratelli d’Italiaがジブリ風イラストを公式SNSに投稿すると、イタリア市民の一部は「ジブリの価値観と党との政治的立場は相容れない」と反応。
『紅の豚』の名言「ファシストになるより豚の方がマシさ」を用いるなどして、党を強く批判しました。
この一件は、文化的な作品やシンボルを、政治的に利用する際の慎重さの必要性を示しています。
特に、スタジオジブリのようにメッセージ性の高い作品を取り上げる場合、その背景や価値観、そして自身に対する国民のイメージを理解しないまま利用すると、逆効果となり得ることが明らかとなりました。
同時に、イタリア市民のスタジオジブリ作品に対する敬愛も明らかとなりました。


まとめ:『紅の豚』イタリアの反応(海外の反応)
イタリアにとって『紅の豚』は、国民的アニメであるといえる。
今回、スタジオジブリの名作『紅の豚』に対するイタリアの反応を調査したことで、スタジオジブリが世界的にどれだけの影響力を持っているか、改めて感じました。
『紅の豚』にこめられた駿イズムは、想像以上に、イタリア国民の心に深く根付いているようです。
特に、
“「Meglio porco che fascista」”
(ファシストになるより豚の方がマシさ)
というセリフ。
2025年には、『紅の豚』のこの名言が、イタリア国民の手によって、政治批判の象徴として、蘇りました。
まさに「文化の力」を体現した出来事だったといえるでしょう。
アニメがもたらす力は偉大ですね。


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