スタジオジブリ作品の中でも、ひときわリアルな青春像を描き出す『海がきこえる』。
杜崎拓と武藤里伽子の淡くも複雑な関係は、観る者の心に深く余韻を残します。
アニメ版のエンディングは、多くのファンの間で「あの後どうなったんだろう?」という想像を掻き立てるものでした。
が、実は原作小説では、彼らの「その後」がさらに描かれています。
今回は、アニメ版では語られなかった彼らの結末、そして気になる結婚の可能性について深掘りしていきます。
「海がきこえる」には続編となる2巻がある

「海がきこえる」には続編となる2巻『海がきこえるII〜アイがあるから〜』があります。
アニメ化されたのは1巻までです。
まずここでは、原作小説(1巻・2巻)とアニメの、刊行日と放送日を、時系列にまとめてみました。
「海がきこえる」刊行日と放送日の時系列まとめ
刊行日または放送日 | 出来事 |
---|---|
1990年2月~1992年1月 | 小説『海がきこえる』が「月刊アニメージュ」で連載開始 |
1993年2月 | 小説『海がきこえる』第1巻(単行本)発売 |
1993年5月5日 | アニメ『海がきこえる』が日本テレビでテレビスペシャルとして放送 |
1995年5月 | 小説『海がきこえるII〜アイがあるから〜』第2(単行本)発売 |
1999年 | 小説『海がきこえる』『海がきこえるII〜アイがあるから〜』が文庫化 |
2022年7月8日 | 小説『海がきこえる』の新装版が発売 |
2023年7月7日 | 『海がきこえるII〜アイがあるから〜』の新装版が発売 |
2025年7月4日 | アニメ『海がきこえる』リバイバル上映(3週間限定) |
アニメ化→2巻発売、の順です。
「海がきこえる」小説版とアニメ版との結末の違い

「海がきこえる」は、小説版とアニメ版では、物語の終盤やそのラストに大きな違いがあります。
ここでは、主要な相違点をまとめます。
「海がきこえる」アニメ版の結末

- アニメ版では高校時代のエピソードが中心。
大学生になってからの様子はほとんど描かれない。 - クライマックスは、拓が、高知での同窓会の後、東京の駅のホームで里伽子に駆け寄るシーン。
物語は、「拓と里伽子が東京の駅のホームで再会する」シーンで終わります。
「海がきこえる」小説版の結末
- 小説版では高校時代から大学時代までのエピソードが描かれています。
- 小説版では、2巻の主要人物として描かれる津村知沙が登場します。
- クライマックスは、「拓と里伽子が高知の同窓会で再会する」シーン。
拓が自宅に帰って、松野に電話を入れようとするところ終わります。
アニメージュでは、拓と里伽子のキスシーンも描かれました。

小まとめ

アニメ版と小説版の最大の違いは、大学生になった拓と里伽子が「東京で再会」するエピソードがあることです。
アニメ版では、ふたりが再会して直接会話するシーンは描かれず、再会の瞬間で幕を閉じます。
これは、観客それぞれに「その後」を想像させる、まさに青春の「余白」を表現したエンディングだといえるでしょう。
思春期の恋が常に明確な答えを出すとは限らない、その曖昧さや不確かさを美しく描き出しています。
小説「海がきこえるⅡ アイがあるから」で描かれるその後(ネタバレ有り)
「海がきこえる」の続編となる「海がきこえるⅡ アイがあるから」。
「海がきこえるⅡ アイがあるから」では、主人公・杜崎拓が、大学生活を送りながら、里伽子の家庭問題や、津村知佐をめぐる複雑な人間関係に深く巻き込まれています。
不倫や親子関係、義母との確執、流産など。
テーマが重く、ドロドロとした人間関係がリアルに描かれているので、大人向けです。
「海がきこえる」その後の見どころと感想
「海がきこえるⅡ アイがあるから」のおすすめポイントと、感想を紹介します。
「海がきこえるⅡ アイがあるから」は、「2巻あって『海がきこえる』だと思った」「2巻の方が好き」という声も少なく好評です。
その魅力とは。
見どころ
- 前回の余韻を残しつつも、より複雑に描かれる人間関係
- 「ふたりのラブストーリーというより、問題を抱える人間関係を通して大人に成長する物語」と読者は評価。
- バブル期の懐かしさや新鮮さ
- 物語の舞台は、90年代の、インターネットやスマホが普及する前で、現代とのギャップを楽しめる。
- 大学1年で2万4千円のイヤリングを里伽子にプレンゼントする杜崎の金銭感覚が「狂っていて理解できない」という人も。
- 物語の舞台は、90年代の、インターネットやスマホが普及する前で、現代とのギャップを楽しめる。
- ワガママな美女2人の板挟みになって振り回される杜崎拓
- 「杜崎は本当に女運が悪い」という声から、「杜崎が羨ましい」という声まで。
- 「原作者が女性なだけあって女性の生々しさがすごい」という評価も。
- 「杜崎は本当に女運が悪い」という声から、「杜崎が羨ましい」という声まで。
- 杜崎拓の包容力
- 杜崎の人柄が、「かっこいい!」「俺は君みたいな人間になりたいよ」と高く評価されている。
- 支え合う杜崎拓と武藤里伽子
- 「お互いの気持ちを確認しあわなくても、通じ合っているふたりに、温かい気持ちになれる」とふたりの関係性が好評。
- 優しい後読感
- 「読んだ後は優しい気持ちになれる」「その後の話がもっと気になる」と優しい後読感が好評。
実際の感想
『海がきこえる』の続編はあまり読まれていないようですね。でも、こっちも面白いっていうか、こっちのほうが面白いかも。前作は高校編としたらこっちは大学編。バブル時代の大学生活も知れるし、それよりも武藤里伽子と先輩の津村知沙は最高ですね。この二人の喧嘩。その間に挟まれた拓。困っているけど、男のロマンでもりますよね。スタイル抜群で美人そしてミステリアスでワガママ。その二人の揉め事というか喧嘩に右往左往している。男なら憧れますよね。『あんたの彼女なんとかしなさいよ』と知沙に怒られる拓。引かない里伽子最高ですよ。
ロマンチッカーnao(https://bookmeter.com/books/575947?page=1)
「海がきこえる」のあまり知られていない?続編。こっちは主人公の影が薄くてヒロインとヒロインの父親の不倫からの事実婚相手との軋轢というかバトルと一応の和解が主軸になる。 今この小説を読むと不倫相手の職業(食品プロデューサー?の秘書)といいバブル感満載で懐かしい。そう、あの時代は大変不倫がはやった。僕の職場でもはやった。そんな感傷をもたらしてくれる。 氷室冴子が今の停滞というか崩落した日本をみたらどういうだろうか。「こんなつまらないのは嫌」と筆を折っていただろうか。そんなことをふと思った。
淡雪(https://bookmeter.com/books/575947?page=1)
ずっとこの作品の中に入っていたくなる気分。若い頃の自分を省みて「あ〜、あの時はこう言えば良かったのか」みたいに思わされた箇所が何度もありました。昔に戻ってみたいと、僕にしては珍しくそう思ってしまった作品です。
じゅん(https://bookmeter.com/books/575947?page=2)
2人の距離感の変化が何とも言えない!彼女が彼を名前で呼んだ場面で、飛び上がるぐらいテンションが上がった。 ストレートな恋愛青春ではないけど、読めば読むほど二人のことが好きになる。
Masayuki Echigoya(https://bookmeter.com/books/575947?page=2)
「海がきこえるⅡ アイがあるから」あらすじをネタバレありで解説
主な登場人物
- 杜崎拓:主人公。東京の大学に通う1年生。
- 武藤里伽子:拓の好きな人。東京の大学に通う1年生。
- 松野豊:拓の親友。京都の大学に通う1年生。
- 津村知佐:拓と同じ大学に通う3年生。
- 田坂浩一:拓と同じ大学に通う3年生。津村知佐の友人でもある。
- 前田美香:里伽子の父の再婚相手。
- 大沢:知佐の不倫相手。
ストーリー
- 物語は、前作の同窓会後、高知城を散歩した杜崎拓と武藤里伽子が、連絡先を交換する場面から始まります。
里伽子は高知に一週間滞在する予定でした。が、里伽子らしく、よさこい祭りの初日に東京に帰ってしまうという、あっさりとした別れが描かれます。
拓と里伽子は「付き合おう」と口にしたわけではない。が、その関係性は付き合っているようなものです。 - 東京に戻った拓は、自身のアパートに侵入し泥酔した津村知佐に出くわします。
しかし田坂浩一に助けを求めることで、なんとか乗り切ります。
知佐は既婚男性大沢との不倫関係に悩んでおり、田坂は知佐のリハビリ相手として知佐と付き合っているという、複雑な立場です。 - 美香は里伽子と仲良くしようと里伽子をディナーに誘います。
しかし里伽子はそれに対抗する為、拓もディナーに誘い、美香は強いショックを受けます。
里伽子はその店先で、偶然大沢とのデートで訪れていた津村知佐と遭遇し敵対します。
その日拓と里伽子は喧嘩してしまいます。 - 里伽子は父の再婚相手・美香との関係に悩んでおり、美香の妊娠を知ることで強い孤独感に苛まれていました。
しかしその後、美香が流産してしまいます。
里伽子の心は激しく揺れ動きますが、拓がそれを支えます。 - クリスマスの日、里伽子は父親と美香の3人で食事した後、拓とデートします。
これが、この物語のラストシーンです。
拓と里伽子はその後「結婚」したのか?

多くのファンが気にするのは、やはり拓と里伽子がその後、最終的に結婚するのかどうか、という点でしょう。
しかしここまで読んで頂けたのであれば分かる通り、2巻の時点では、拓と里伽子は結婚していません。
また、結婚の約束もしていません。
となると、3巻に期待してしまうところですが、原作者の氷室冴子さんは、肺がんの為、51歳の若さで2008年に亡くなられています。
それなので、拓も里伽子が結婚するかどうかは、個人の想像に任せられるところとなっています。
個人的には拓も里伽子は結婚すると思っていますし、多くのファンもそれを願っていることでしょう。
2巻では互いを名前呼びし、クリスマスデートもする仲になっており、かなり良い感じです。
1巻では、拓は「好きだった」と口にし、里伽子も「好きなのかもしれない」とその想いを明確に互いに告げています。
(里伽子は高校時代から、拓の想いに気が付いていたらしい)
拓と里伽子のその後を更に知りたくなったら、2巻を手に取ってみることをおすすめします。
一読の価値ありです。
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